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ビョルン・アンドレセン 日本との新しい関係と彼の物語が残した教訓 [The Most Beautiful Boy In The World 監督インタビュー]

ドキュメンタリー映画「The Most Beautiful Boy In The World 」の制作に携わったクリスティーナ・リンドストロム監督とクリスティアン・ペトリ監督がサンダンスフィルムフェスティバルの会場でリモートインタビューに答えています。この形式のインタビュー動画はもう一つあるのですが、こちらはより重要な内容を含んでいるかなと思い、日本語に訳しました。

 

📍このインタビューでは音声が重なったり、遠のいたり聞き取れない箇所が複数あるため、完全な形ではありません。

 

 

 

 

下線部は聞き手の男性の発言、Lは女性のリンドストロム監督、Pは男性のペトリ監督の発言です。 

 

The Wrap - Brian Welch Interviews Kristina Lindström and Kristian Petri 

 

こんにちは、ブライアン・ウェルクです。ここ、サンダンスフィルムフェスティバル2021のザ・ラップ サンダンススタジオからお送りしています。そして、ドキュメンタリー映画「The Most Beautiful Boy In The World 」のクリスティーナ・リンドストロム監督とクリスティアン・ペトリ監督にお越しいただいています、お二人共、今日はありがとうございます。

 

L,P: こちらこそありがとうございます。

 

この映画はスウェーデン出身のビョルン・アンドレセンについて、彼が文字通りどのように「世界で一番美しい少年」となったのか、ルキーノ・ビスコンティ監督にそのように称されてということなんですが、お聞きしたいのは、どうしてビョルンの物語を伝えることになったのでしょう?まず彼に会ってからそうなったのか、それとも彼に関してわかったことがあるので本人を探し出したかったのか

 

L: 彼に会ってからです。クリスティアンは以前から彼を知っていて、ある晩、彼と会っているところに私が合流したんです。ビョルンは私の若い時からのアイコンでもありますから覚えていましたよ。でも、この映画を始める前は私は彼には会っていないんです。

それで、私達が話すようになったあの晩、「あの少年は誰?」「あの役を演じたあの少年は何者なの?」「あの子はどうなったの?」と聞いたんです。

そうしたら… まぁ何と、中身の濃い強烈な物語だと理解しました…

そして彼に聞いたんです、私達と一緒にこの役を作り上げてみませんかと。

でも、もちろん彼は少し嫌がっていました。あの映画のことは彼も何十年も言っていますが、私達も彼の人生を壊した映画と言ってきたので、最初は(彼は)複雑な気持ちを持っていたんですけど、私達が何がやりたいのかを説明していくうちに賛同してくれましたね。

 

P: それが5年前です。

 

5年前にまず彼にまた会ってからそれを話し始めたと… お二人は「ミッドサマー」の現場にも立ち会っていますけれど、何かその、凄く非現実的なイメージの彼を見るのは珍しかったというか、かつての美しい顔があのホラー映画で破壊されて… あの、どうでしょう、お聞きしたいのはあるタイミングで彼はカムバックをするでしょうか?或いは演技することに戻りたい、そんなようなことをやりたいと思っているんでしょうか?

 

L: 実は今、彼はフィンランドで撮影しているんですよ。

 

あぁ、それは素晴らしい

 

L: TVのシリーズ物で。それと何か他にも…

 

P: そう、彼はTVのシリーズ物をやってますし、長編映画もいくつかやって、小さい役かもしれないですけれど本当に良い役をやっています。それにデンマークでも撮影してますし、とてもアクティブです。

それから、映画の中でご覧になったと思いますけれど、彼は音楽に力を入れてるので今、曲を二つレコーディングしていて二週間くらいで発売されます。間違いなくアクティブにしていますよ。

 

ビョルンの扱われ方でお二人が最も衝撃を受けたのは何だったのでしょう?ビスコンティ監督の彼に対するものか、メディアの扱い方か、それとも彼を取り巻いていたあの当時の文化なのか?お二人はアイコンとしてのビョルンや当時の話はお若い時に知っているかと思いますが、実際、深く掘り下げていくうちに、この一連の何に驚かれましたか?

 

P: そうですね、ある程度まではまあショックなことがあっても、これは1971年当時の状況だからと自分に言い聞かせましたが… ただ、1971年にカンヌで行われた記者会見でビスコンティ監督が、(ビョルンは)もう美しくないという意味のことを大勢の記者を前にして言いましたよね。

あれは(ビョルンを)何か使い捨ての物のように… あぁ… 実に酷い瞬間でした。

あれは私達がイタリアのテレビ局で発見したアーカイブの一つで、50年間誰も目にしていないはずです。

言うまでもなく、あのキャスティングの時の映像(オーディションの映像)にもそれと同じことを何度も何度も感じます… ええ、傷つきます…

 

L: それと、ビョルン本人もその当時のことが思い出されてきたんですね。

プレミアの頃やあの騒乱の後の何年間か、彼が世の中をふらふら彷徨っているかのような時期、実際、もちろんパーティーもあり、お金持ちのいろいろな人達に招かれたり(聞き手の声と重なって、後は不明)

 

ちょっと驚いたというか、映画序盤のクリップではほとんど彼は喋らないですよね、文字通り、ただ美しくあるためにそこにいて、まさに顔としてアイコンとしてそこにいて、ビスコンティ監督や他の人みんながいろいろな形で彼に代わって話をする。ああいうビデオをまた観て、彼の反応はどうでしたか?或いは、もうあの当時のことを味わうようなものとは関わりたくないのかもしれませんが

 

L: 彼は何回かこの映画を観ていますよ。

ですから、彼はあの別々の場面を別の時代に生き直しているんだと思います…

 

P: 最初は彼は気が進まなかったんですよ。なぜって、人は「ベニスに死す」のことを本人の一生涯に渡って聞き続けているんですから。まあ、控えめに言っても辟易していたわけです。

でも、この撮影が始まり一緒に取り組んでいくうちに、つまり、(彼の中の)その複雑な何層にもなっている下のほうに私達は触れることになる…

でも悪いことばかりじゃないんです、あの映画は自分の人生を壊してしまったとも彼は言いますけれどね。それを掘り下げていくと、(「ベニスに死す」の)撮影は冒険でしたよ。彼は楽しみましたし、まあ、マジックでした、あのひと夏の撮影は…

 

L: それに素晴らしい子供達の教育係りの女性(映画で演じた役者を指しているのか、別の人物なのか?)と、とっても楽しい時を過ごして… 唄ったり遊んだり、いろいろ…


P: そう、他の子供達とみんなで撮影現場で遊んだり、ふざけ合ったりね。

でも、プレミアが始まってビスコンティ監督が「世界で一番美しい少年」と表明した後から、すべてが変わり、悪いほうにいってしまいました。

 

もう本当にうんざりだとなった時にターニングポイントのようなものが彼にはあったんでしょうか?わかりませんけど… あの… 多少放浪し始めたとか、或いはもう戻りたくなくなるとか、何かがその後の彼の人生で…

 

L: あの映画を経験したこと、あの映画の後に彼の身に起こったこと、彼の写真や画像… そういう背負い続けてきた重荷が彼の人生に何年も、大人になってからの人生にもずっと影響を及ぼしてきたと思います。

もともと彼は、十代の頃も今もユーモアのあるとても面白い人で、とても才能があるんです。ピアノを弾き、ギターを弾き、歌も唄います。彼にはたくさんの友達がいたんですが…

彼にとって一番良かった時代はその十代のグループ、友達が周りにいた頃です。その子達は… すべてがあの映画の後、消えてなくなってしまいました… (その後の短い発言は聞き取れず)

 

 

 

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Image: ‘The Most Beautiful Boy In The World’ Juno Films

 


(この映画を観ていて)私が興奮したちょっとした場面の一つに、近年、お二人が彼と一緒にいる所で彼が自分の歌をカラオケで唄っていますよね… その… 何十年経とうとも… あれはまさに素晴らしい偶然の出来事だったんですか?どうしてああいうことになったんでしょう?

 

P: あの… 日本のこともまた、何て言うか複雑だったんですよ。

彼が若い頃に日本に行った時は行くのがとても嫌で、日本ではほとんどの時間怯えていたんです。ホテルの部屋にいて出られない状態になり、ホテルの外には物凄い数の女の子達が嬌声をあげている、ビョルン!ビョルン!ビョルン!と叫び続けている…

だから怖かったんです、彼は…

 

L: それと彼は私達に(当時、日本で収録した数曲を)「聞かないで」と言ってきたんです。「誰も聞けないようにしておいたから」って。(自分で唄った)ポップス数曲のことを「酷いんだ、酷いんだ」と(笑って)。

それから私達と一緒に日本に行っていろいろな人と話していると、その人達が「ああ!もう、彼は完璧に唄ってます!」「もう、本当に完璧な日本語で唄ってますよ!」「あっ!凄く上手!」と言うんです。

そうしたら、ビョルンはその数曲の歌がだんだん好きになってきたんですよ…(声に出して笑う)。

 

P: それとやはり私が重要だと思ったのは… 他の人のことを代わりに話すのは危険なんですが、でも私が感じ取ったことはビョルンは日本での経験を、あの場所を、日本を、言わば取り戻すことを楽しんでいました…

 

L: 別のやり方で。

P: 別のやり方で、成熟した大人として…

あの場所に戻って、そして「今度は私の物語ですよ」とでも言うようにね… 他の誰のものでもなく。

だからこそ、彼は楽しんでいたんです…

 

L: 自覚を持って日本にいるということを。

 

P: そう、ただ連れ回されるのではなく…

 

スポットライトを浴びて注目の的になるというのは今の時代もそうで、メディアでの扱いは多くの場合変わっていません。私達は未だに持て囃し、さまざまな有名人を祭り上げますよね。そして、ルックスや美しさに、他の要素には目を向けず注目してしまいます。私達が、こういうことをどれほど認識しているかという点では大きく変わりましたけれども、今、ビョルンの物語から人々が学べることは何だとお考えですか?

 

L: とても重要な質問ですね。

 

P: 非常に重要な質問だと思います。

ビョルン自身も言っていましたが、子供を映画界に入れるのなら両親が大きな責任を負っていると。彼が言うには、それは致命的なことになり得るからと…

 

L: そうです、危険なことになり得ます。

 

P: ええ、とても危険なことです。

ビョルンは当然、自分自身の経験から話すわけですが… つまり彼には両親がなく、あの部屋にたった一人でいてビスコンティ監督が彼に目を留めた… そして彼を選んだ…

明らかに、そういうことは常に、いろいろな形で起きている。

子供のスターはまた出てくるでしょう。

 

L:  人々が何を学べるかということでは、重要なのは子供がそういう業界に行くのならその子は注意して見てもらうこと。(その子のための)たくさんのルールを設けないといけないですし、周りが気をつけてあげることです。

 

P: ある意味では、そういうことの意識は今はもう少しあると思いますが、それでもまだきっとこういうことは起こるし、再び起こっていると思います。

 

L: 別のプラットフォームで… メディアも含めて。

それから、ビスコンティ監督がそもそもなぜビョルンを選んだのか… 私達が知ったのは、監督はビョルンの中にぜい弱性を見たから…

 

P: 監督はビョルンの目に悲しさを見出して、それが本当に気に入った…

 

L: だから(内と外)二重なんです。そういう儚げな少年だから…

 

P: ただ、ビョルンのことをタジオがすべてとしてはいけないと思うんです。

私達は今、ビョルンの物語を伝えている。少年のビョルン、そして彼の人生… それは本当に豊かで何層にも織りなしていると思います。

多くのことが、あらゆることが彼の人生に起こった… 良いことも悪いことも… その生涯に渡って…

凄い人生ですよ、伝記物より壮大な。

 

L: そして私達にとって大切なことは、この映画の最初から最後までこの少年に焦点をあて続けるということだったんです。

 

今日はいろいろとこの映画やビョルンについてお話しいただき、どうもありがとうございました。

 

              ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

私が初めて「ベニスに死す」を観たのはほんの半年ほど前です。 アッシェンバッハの年齢よりずっと長く生きてからタジオに会いました(^^; 

 

先に投稿した、ビョルン本人のインタビューを訳している過程では、思うように進んでいかない時がありました。その理由は普段はしない翻訳作業というより、私自身の気持ちが内容とシンクロしてちょっと重くなっていたからだと思います。重くなった材料は他にもありました。映画上映直後のレビュー記事を読んで知ったビスコンティ監督の発言に関するものです。

 

でも、その心境から救い出してくれるものもありました。

二つの動画インタビューを見たり、レビュー記事の監督のコメントをいくつか読み、この二人の監督がビョルンの心に徹底的に寄り添っているという印象を受けたからです。

 

このインタビューで明かされている、当時と現代(2018年春 来日)におけるビョルンにとっての日本… 以前、別の記事で読んだ監督のコメント、「彼は日本を本当に楽しんだ」の意味をより理解できた気がします。若き日に植え付けられた日本のイメージを、彼は「上書き」して「更新」したのでしょうか? 今度は紛れもなく自分自身の手によって…

彼の中の日本が綺麗な色に塗り変わったのなら、その色がこの先も褪せることがありませんように… 日本での、恐らくは「思いがけない収穫」は、多分に日本の関係先の方々のビョルンへの接し方もあったのではと推測します。(それを窺わせる監督のコメントが別の記事にありました)

そして、カラオケで自身の曲を唄うビョルン… 想像できませんね( ◠‿◠ )