Simple Joys

まだ見ぬ景色 その先の

ビョルン・アンドレセン 2017年TVインタビュー 日本語訳

*** スウェーデン制作のビョルン・アンドレセンドキュメンタリー映画「The Most Beautiful Boy In The World」(2021年1月29日Sundance Film Festival で上映)に関連して収録された、ビョルンのストックホルムでのスウェーデン語のインタビューを昨年秋に2つほど目にし、ごく近しい人に英語に訳してもらいました。

一つはYouTube にあるテレビのトークショー番組、もう一つはポッドキャストにアップされたラジオ番組です。

その英語の資料を私が整理してまとめたものを少し前の2つの記事に上げていますが、更に日本語に訳したものがこちらです。作業には細心の注意を払いましたが、スウェーデン語→英語→日本語と段階を踏んでいるためニュアンスの違いは出るかもしれません。私自身の感じたことも絡めながらまとめています。***

 

 

  

 

1番目の記事はテレビ番組「Malou Efter Tio」のMalou von Siversさんのインタビューに基づいています。下線部はMalouさんが発言した部分です。

 

Malou After Ten /スウェーデンのTV局チャンネル4 (YouTube 2017年11月12日掲載)

 

今週のテーマは、「成功」は「幸福」と同じなのかどうかですが、このテーマについて、今週、さまざまな方々とお話ししてきました。

多くの人が、特に若い人達は映画のメジャーな役を獲得して大きな成功を収めることを夢見ています。ある映画が世界中で上映され、熱狂的な刻印が押されたのは1971年の「ベニスに死す」、そしてその主役の一人を演じたのは若きスウェーデン人少年、ビョルン・アンドレセンでした。

 

 

f:id:clematisgarden:20210127234634j:plain


🖌映画でタジオがピアノをつま弾くシーンを映した後


1971年から随分経ちましたね?ようこそいらっしゃいました、ビョルン

 

🖌映画の内容について簡単に説明して

 

多くの若い人達が夢見るもの、と先程も言いましたが… あなたが仰るには、数多くの映画のオーディションに応募したのは(母方の)お祖母様だと

そうです、祖母はとても熱心でした。

 

そうなんですか?

動機は知りませんけど… 有名な孫を持ちたかったのかどうか、或いは…

 

もしかしたら、あなたにお祖母様自身の夢を叶えて欲しかったのでは?

うーん、私にはわかりません。

 

お祖母様がいろいろなオーディションに応募することをどう思っていらした?少年時代に夢見たようなこと?

いえ、それほどでも。そこまで私の夢というわけではありませんでした。

ある人が「ビョルン、あなたは夢のような人生を送りましたね」と言ったんです。でもそういう事なら、それは誰か他の人が夢見たということです… 私ではありません。

 

あなたの夢ではなかった?… さあ、番組はある珍しい写真と映像を入手しました。ストックホルムでのオーディションのもので、そこであなたはあの映画の監督と会いましたね。映画の少年を演ずるにふさわしい人物を、監督は実に何ヵ国も訪れて探し回ったのです。しかもそれはただの監督ではなく、ルキーノ・ビスコンティという著名な監督でした。では、これがビョルンがオーディションの時の様子です…

 

🖌タジオのオーディション動画からビョルンの場面を観せて

 

 今、ご覧になっていかがですか?

… 「Sourire!(🖋仏語でスマイル)…そこからそこまで歩いて… 振り向いて、スマイル」

 

どんなことを覚えています?… 居心地が悪そうですけれど

オーディションを受けている時ですか?

 

そうです

セーターを脱いでというような事を… ちょっと変に思いましたけど。

 

ええ、私達(番組制作側)もこれを観るとこの少年に同情してしまいます

あ、そうですか?

 

ええ、そうですよ

ご同情いただきありがとうございます(笑って)。

 

あれは不快に思いました?どうでしょう、覚えてます?

不快ということではないですけれども、何でしょう… 全く予想していなかったことです。

 

オーディションを受けることはお祖母様の希望であなたのではないというのは、本当に?

ええ、私自身は申し込んでいません。

 

それでも、今、観たように監督は完全にあなたに魅了されて、そしてあの役を射止めたのはあなたでした。映画の撮影で覚えていることは?

まあ、おおかたはとても楽しかったですね。

 

あぁ、楽しかったですか?

ええ、私達みんな大勢、忙しく動き回って演技していました。何が起こっているかはよくわかリませんでしたけど。

 

何だか遊んでいるような感じ?

そう、何て言うか、素敵な夏のアルバイトでした!

 

あぁ、そうですか

大雑把に言うと。

 

f:id:clematisgarden:20210127181627j:plain

 

お幾つでした?

15才です。

 

15才… その後、映画は大きな注目を集めましたよね。あなたがあれほど有名になったことでどんな影響があったんでしょう?

影響ですか… どれほど影響したかというのはわかりません。

これがどれほど大きかったかという全体の見通しも私には全くありませんでした。ルキーノ・ビスコンティ監督のことも知リませんでしたし。

ヨーロッパフィルムから電話が来て、巨匠ルキーノ・ビスコンティが興味があると。何のことだろうか?… ポルノ映画か何か?と。

それくらい無知でした。

映画制作後は新聞社から何人か取材には来ましたけど、それほど大きな注目はありませんでした。

 

でも、映画のプレミアは大きなイベントでしたでしょう?イギリスの女王が招かれましたし

ええ、そうでしたね。

 

映画の中の男の子はシャイに見えますね

ええ、今もそうです。

 

そうなんですか?

そしてその後、映画が広く知れ渡り映画の人気が爆発しました

初めは何でも楽しかったのが、のちにちょっと手に余るものになっていきました。カンヌ映画祭やそういう…

 

世界一の美少年として知られるように…
🖌ここで彼は、スウェーデンのある小説(題名は聞き取れず)の中に出てくる「天使の唇を持つ少年」のことに触れています。

 

多くの若い人達はこういう事が自分達に起こることを夢見るのですが、あなたの場合は、これがご自身が追求したい事だと考えることもできたんだけれども、そうはならなかった…

ええ、ならなかったです。もし、あれをやりたかったならおそらく続けていましたし、野心も抱いたと思います。

 

そして、世界はあなたにとっていくらでも開いていたでしょう…

たくさんの人がそう言いました。

 

「ベニスに死す」の後、断ったオファーがあるんですか?

うーん、面倒に感じたんだと思います…

 

面倒に?

ええ、もう一つイタリアで映画の撮影があるところでした、「ブラック・デビル」か何かという題名がつくはずだったと思います。

でも、私にはそれほどまでの気持ちがなかったんです。そして、おそらく祖母でさえそこまでの気持ちはなかったと… 少なくともそれは実現しませんでした。

立ち消えた映画の企画はいくつかありました。

 

興味を持てなかったから…

そうだと思います。

 

ところで、あなたはお祖母様の所に住んでいらしたんでしょう?そこで育ったと 

ええ、母が亡くなった後は。

 

ですから、お祖母様はあなたにとって重要な方だったんですね?

そうです。私が成人するまでは中心的な役割りでした。

 

あなたが映画の撮影をした時、お祖母様もベニスに同行されたんですか?

あぁ、そうですよ。映画にも出ていますよ。(O_O)

 

映画に!? では、役が付いたんですか?

ええ。

 

お祖母様は何の役を?

客の一人としてワンシーンに出ています。

 

あなたのお話を聞いていて、もしかしたら、あれはお祖母様の夢ではなかったかという印象を受けるんです、あなたの夢というより

たぶんそうです。私には私の夢がありましたし。

もし、誰かがそういう夢を持っていたとしても、私はそうではありませんでした。

 

f:id:clematisgarden:20210127182601j:plain

 

結果として演劇や映画のほうには進まず、あなたが小さい頃からやっていた音楽のほうに

私の夢は音楽でした。

でも、人が一旦しるしを刻まれ、特別な一世一代の役としての注目を浴びると、これは私自身がわかったことですが、それ以外としての自分を確立するのはとてもとても難しい。不可能とは言いませんが。

 

つまり、この事で凄く有名になったので、誰もあなたと音楽についてなど話したくなかったと?

まぁ、昔話ですが1970年代末にこんな事がありました。

作曲家のカール エリック・ヴェリーンの家でのパーティーに出席した時、当然ながらそこにはグランドピアノがありました。

その当時、私はかなり良いピアノの練習を積んでいたのでクラシック曲を弾いたんです。リストのピアノ協奏曲第1番だったと思います。

すると弾き終わった時、女性がフロアーを横切って来てこう言いました。

「まあ、驚いた!」「あなた、(1つでも)できることがあるの?」

思わず、「失礼ですが、僕は1万時間練習してきましたし、ピアノは3才の時から弾いているんです。」

でも、言いませんでした。ただ、呆然と口を開けたまま椅子に座って驚いていました。

(🖋以前から明かしているエピソードです。彼が絶望の淵に追いやられるような、自分がどう見られているのかを強烈に認識する象徴的な出来事だったのではと推測します)

 

その時、何才でした?

そうですね… たぶん21か22。

 

じゃあ、映画から5、6年後ですね… でもあなたは美少年として知れ渡り、そのままそれが定着しました…

それ以上のことはあまりありませんでした。

 

確かにそうでしたね

昔、レナ・ニーマン(金髪のスウェーデン人女優)がラジオの「頭の悪い金髪たち」という番組にゲストで出演していて…

 

あなたも出ていらしたの?

ええ。

(🖋まだ、髪の色が明るい十代の頃でしょうか?この時も出演依頼にノーと言えなかったのでしょうか( ;  ; ))

 

なるほど… つまり、あなたとレナ・ニーマンは「頭の悪い金髪たち」だと。その時何を話したんですか?

かなり前なので覚えていませんが… でも、そういうテーマを持ってくること自体が恥と言うか。

 

本当にその通りですね

 

「ベニスに死す」のテーマは年配の男が年若い少年に非常に惹かれていくというものです。

どういう映画か理解していました?

いいえ、全く理解していませんでした。

 

ただ(演技だけして)いたと

ええ。

 

どういう映画なのか、観てわかった時は恥ずかしかったですか?

そうでもなかったです。オーディションの日、小説本をもらい、それを読んだと思います。

ただ、まだ15才だったので…

 

この映画の持つパワーとかイメージはわからなかったでしょうね…

わからなかったです。

 

f:id:clematisgarden:20210216234407j:plain

 

まぁ、でもあの時代たくさんの女の子があなたに興味を持ったでしょう…
ええ、でもそれは社会生活上困難にもなりました…

 

そうなんですか?

ええ、女の子達とどうイチャイチャしたらいいのか全然わからないのに、女の子達がいつもそこにいて、そしてそれが恥ずかしくなってきて。

 

でも、女の子達のほうから来てくれたら好都合ではなかったですか?シャイな少年のあなたが探しに行かなくていいですし、彼女達が来てくれるから…

ええ、彼女達が来ましたね、あの当時… でも何て言えば…

 

この映画が無ければ人生は違うものになっていたと思いますか?別の選択をしていたでしょうか?

ええ、していたと思います。

 

何をやっていたと思いますか?もっと音楽をやっていました?

ええ、そっとしておいてもらえてたらと言うか、わかりませんけれど、もしかしたらコンサートピアニストになっていたかもしれません。

 

この事(映画)が障害物になったようですね?

ええ、大変な騒動になっていましたから。

それに、自分自身に大きな自信を抱いたことは一度もないんです。

人に言われたようにやる聞き分けの良い子供でした。

 

ええ、オーディションの様子からも何となくわかりますよ…

そう、ちょっと困惑している表情を見たでしょう?

私はね、「いや違う、こっちがしたい」と言うようなタイプではないんですよ。

いわゆる「人に気に入られたい」というような。

 

f:id:clematisgarden:20210208200358j:plain


 

ごく最近、「Jordskott 」(スウェーデンのTVの探偵シリーズ) で演じていますね。でもすぐ殺されてしまって(笑って)…

そうですね… (笑って)

 

第一話の後、いなくなりました。紳士の役?

ええ、小さな役でした。

 

では、音楽のほうはどうでしょう… 音楽教師もされ、いろいろな活動をされてきた中で、今も演奏活動をしていらっしゃいますね…

ええ、まぁ、でも指の病気を発症して今は少し減らしています。

そのせいで演奏のレパートリーが限られてしまっているので。

でも、はい、まだ演奏はしていますよ。

 

つまり、ピアノの演奏には本当に柔らかい指の動きが必要と…

そうです、ラフマニノフを弾くのなら凄く敏速な動きが必要です。

 

さて、「成功」は 「幸福」と同じですか?(番組の今週のテーマ)

違います。

 

違います?断言するんですね

ええ、もし、私がした事が「成功」かどうかなら違います。

私が、私の力で自分自身の原動力をもってして何かを成すのなら、それならその成功は幸福というものでしょう。

 

でもこれはあなたの(原動力)じゃなく… ドキュメンタリー映画を今、制作中ですが…

ええ、この単純な人物について…

 

(笑って)… ではこれも疑いの目で?

いえ、疑ってはいません。クリスティアン(映画の監督の一人)と私はもう随分昔から知っている仲で、だからその彼が提案してきた時、どうしたらいいですか?断るんですか?

いや、クリスティアンと仕事するのはとても楽しいです。

ただ、戸惑いはあります。

(🖋この映画の二人の監督に取材した記事をとても興味深く読んだので、前の記事にあげています。旧知の仲のクリスティアンでも相当な時間をかけて彼の心を解きほぐし、制作にこぎつけたことが窺われます(^^;)

 

この事(「ベニスに死す」に関連するもの)についてこういう強い関心が向くことを理解できないようですね

ええ、こういう注目に戸惑っています。

なぜこうなっているのか理解できません。

 

この番組も同じ理由であなたをお招きしましたけれども… いらして下さって嬉しいです

この事については私達(番組制作側)、いろいろな思いがありましたから… そしてこの時に「自分自身が原動力ではなかった」この少年についても、です…

ええ、一つ思い出したんですが、6才だった娘のロビンが道端で突然止まって、「パパ、大きくなったら何になりたい?」と言ったんです。凄く真剣な様子でね。そして、これがとても関係する質問だと思います… だから、私は「遅咲きの花」として売り出せたら(微笑んで)。

 

(微笑んで)そうですね、そしてうまくいきますように

ありがとうございます。

 

お越しいただいてありがとうございました